まえぶれ。
熊本での生活は穏やかに過ぎていた。
キャバクラやセクキャバには行かないと誓い宿泊先から作業現場へ往復の毎日。
相変わらず5人部屋で窮屈だったが我慢していた。
『お仕事頑張ってる~?会いたいなぁ…』
こんな内容のメールが雪乃ちゃんからくるようになっていた。
彼女のジュンコが夜の仕事をしているのでこういったメールをお客さんに送るのを知っていた。
でも心の中で ひょっとして僕の事を…なんて甘い考えもあった。
そもそも僕は何でキャバクラやスナックに飲みに行こうと思うのか?
アキラは100%口説き目的だった。お店の女の子と付き合いたいと考えていた。
僕は…
なんだろう。
口説いて付き合いたいとは思っていなかった。
Hな事をしたいと思っても 付き合いたいとは思った事はなかった。
きっと付き合ったら大変なんだろうなって思っていた。派手な生活に高価なブランド品をねだられる事を想像した。
ジュンコは僕と付き合い出してから夜のバイトを始めた。もちろん嫌だったが沖縄にいた僕は止めきれなかった。
華やかな夜の仕事をしているジュンコを好きになったわけではなかったしジュンコから色々愚痴を聞いていたのでそんなお客さんにはなりたくないと思っていたので僕は自分でブレーキをかける事が出来た。
僕は寂しさを紛らす為に夜のお店に通っていたのだろうか?褒めてくれる、認めてくれる女の子に会って楽しい時間を過ごしたい。
そしてあわよくばHな事をしたい。
それが当時の僕の考えだったと思う。
彼女がいた事でガツガツしなかったしどうにもならないという思いが強かった。
それが『メール』というキャバ嬢の新しい営業スタイルが登場して 『どうにもならない』から『どうにかなるかも?』ってお客さんの心変わりに拍車をかけた。店に行かなくても繋がっている事は当時は斬新だった。
僕も例外なく毎日決まった時間に雪乃のちゃんからくるメールが待ち遠しくなっていた。
僕は依存型の人間でこういう風に接する女の子に弱かった。現在は年齢を重ねた分、少しはましになったと思うが…
同世代の友達は車やファッションにお金を使い女遊びはナンパや合コンといった感じだった。
僕は定職に就かずフリーターという立場に後ろめたさを感じていてそういった友達に自分から連絡して遊ぶ事は無かった。
同じ境遇のアキラやバイトや学生してる友達と遊ぶ事が多かった。
たまに誘われて一緒にナンパしに行っても成果の上がらないナンパよりキャバクラやスナックで女の子と話している方が楽しかった。
友達とワイワイ話すのは楽しかったのだが…
雪乃ちゃんはストレートに会いたいってメールしてきたり新しいドレスを買ったとかケーキを食べに行ったとか自分の生活もメールしてきた。
僕も暇だったのでマメに返事をしたが店に行きたいって思うより行かないといけないのかな?
来てほしいのかな?
と自分の気持ちというよりも相手の気持ちに合わせていくような気持ちになっていた。
Y店は収入の少ない僕でもいける大衆的なキャバクラだったので水曜日くらいになると また週末に行こうかなと思い始めてしまう。
ジュンコに会ってしばらくはキャバクラの事は全然考えないのに毎日のように雪乃ちゃんとメールしているのは大きかった。
ジュンコは昼間も仕事をするようになり週末に誘いづらくなった。僕はなんとか自分の気持ちを押さえて2週間程キャバクラに行くのを我慢していた。
そんな時に雪乃ちゃんから電話が来てご飯に誘われた。
僕『それって同伴でしょ?』
雪乃『違うよー 今日私 休みだもん』
嬉しかった。
他のお客さんと僕は違う。キャバ嬢と同伴じゃなくご飯に行く。僕は有頂天になった。店に通わせる手口とは知らずに…
平日だったので遅く帰るのは避けたかったがひょっとして…と淡い下心を抱きながら駅に向かった。
Y店で見る雪乃ちゃんとは違い私服はカジュアルな感じでジュンコに似ていた。
それがまた良かった。
やっぱりギャップはいい♪
雪乃ちゃんが予約していた和食の創作料理の店に入った。
雪乃『タカちゃん和食好きだって言ってたから。』
ただ予約しただけなのに僕の為に予約してくれたって思い喜んだ。
楽しくご飯を食べて…
帰り。
そう解散でした。
時間にして2時間くらい。ホントにご飯だけでした。
雪乃ちゃんは明日朝早く起きないといけないとかで僕に謝ってきました。
雪乃『ごめんねー ゆっくりできなくて。また一緒にご飯行こうね』
残念だったが平日だったので あっさり諦めがついた。
多少どこかに寄るか悩んだが旅館に帰った。
きっと今日はありがとうって雪乃ちゃんからメールが来ると思っていたが来ない。
次の日も雪乃ちゃんからメールは無かった。
僕からメールするのはなんか気が引けたので待った。
2日くらいして我慢出来ずに僕からメールしてしまった。
『元気にしてますか?今日飲みに行こうと思うんだけどいる?』
すぐ返事がきた。
『お久しぶり♪オープンからいるよ(^^)』
返事がきた!凄く嬉しかった。
そして夜の街へ向かった…